農業技術の匠、鈴鹿ポートリー近藤社長の土づくり講座をお届けします。
匠の土づくり講座 24 最終号
14.12.25
連載24 おわりに
師走を迎え、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
早いものでこの講座もとうとう二年間の最終号を迎えることになりました。
畜産農家の立場で、「土壌」のお話をさせていただきましたが、
何分、素人がさまざまな先生のご講演を拝聴し、自分なりにまとめたものですので、
わかりずらい点や不明な点が多々あったかと思います。ご容赦ください。
耕種農家と畜産農家を結ぶ言葉に「耕畜連携」という如何にもお役所言葉のようなものが
ありますが、私はこの耕畜連携を支えるものこそ、生産現場である「土壌」と考えて
います。
生産現場で如何に「もうかる農産物」が生産でき、かつ「儲ける」ことができる
かに、「真の連携」の成功はかかっていると思います。
したがって、お互いの苦手の部分を補い、こうゆう堆肥が欲しい、
こうゆう堆肥があるぞ。
といった情報のネットワークが、最終的なゴールではないかと考えるようになってきました。
土壌は、植物をゆっくりと生産する場です。現代社会は人口増加に伴い、食料増産に入り
基本的にゆっくり生産する場である「土壌」を酷使し続けてきました。
ゆっくり「土づくり」を行えば、恐らく土壌の悪化や劣化は避けられたことでしょう。
地球も温暖化してきていると言われています。食料生産の場を今一度、農業という視点に
立って考え直し、永続的な生産ができる「場」を保全していきたいものです。
そのためには、もちろん必要に応じて化学肥料を適切に使いながら、畜産堆肥を積極的に
活用していかなければなりません。
中部エコテックさんが開発した「エコリーフ(ECOLEAF)」は、その意味においても、次世代の肥料製造
機であると同時に、もっと進化できるものと信じております。
本当に二年間、ありがとうございました。
また、どこかでお会いできることを楽しみにしております。
鈴鹿ポートリー代表取締役 近藤博信
匠の土づくり講座 23
14.11.26
連載23 「土壌診断⑤ 土のリン酸-可給態リン酸」
土壌診断結果の見方について、考えてみています。
では、耕種農家の方であれば、土壌診断結果を見ながら読んでいただきたいのですが、
可給態リン酸という項目が、土壌中にある「リン酸」がそれに当たります。
水田ではこの数値が多くても100グラム中に30ミリグラム程度。
畑であれば、同様に100ミリグラム、多いところでは200ミリグラムもの
リン酸がある圃場があります。
このように、リン酸が蓄積した圃場では、水に溶けてくるリン酸が
100グラム中に50ミリグラム内外が検出されます。
つまり、水に溶けてくるリン酸を作物は取り込んで、光合成や自分の体を
つくるために使うのです。
土壌の中にある水溶性のリン酸を化学肥料である過リン酸石灰が溶けている
と仮定し、計算してみると、深さ40センチメートルの土の中に約1トン
程度になるのです。
過リン酸石灰といえば、かなり金額のはる肥料です。そう感じたときに
初めて適正な量を知り、土壌診断が役に立ったと思える日が来るのです。
それから注意しなければならない、リン酸過剰です。
たとえば、トマト栽培で250ミリグラム以上ある圃場では、
下葉に苦土(マグネシウム)欠乏症が現れます。
同様に、リン酸過剰土壌では土壌のpHが低い、すなわち酸性土壌にも関わらず、
じゃがいもそうか病が激発することが最近の研究でわかってきました。
従来では、リン酸が悪影響を及ぼすことなど、考えにも及ばないほど、
日本の土壌にはリン酸が少ない状態でした。昭和初期から高度成長期を経て、
日本の土壌は大きく変わってしまっています。
次回の最終号では2年間の総まとめをしてきたいと思います。
匠の土づくり講座 22
14.10.27
連載22 「土壌診断④ 土の胃袋-CECは保肥力の目安」
土の胃袋で説明したことのあるCEC(陽イオン交換容量)も重要な
土壌診断項目の一つです。
この値は土壌によって異なります。砂質土壌で5程度、粘土や腐植を多く含む
土壌で40程度です。
CECが大きい土壌ほど肥料を持つ力が強いということなので、
農作物をつくる土としては、15程度が望ましいと言われています。
土壌のCECを高めるためには、堆肥や土壌改良資材の投入が有効です。
堆肥では牛ふん堆肥を10アールに4トン程度。
土壌改良資材であればゼオライトがよく知られています。
ゼオライトは海底に溜まった火山灰が変質してできた天然鉱物で、
日本では主に秋田県などの東北地方で採掘が可能です。
そのCECは150~200にも及びます。火山大国日本ならではの天然資源です。
ゼオライトはCECを高める目的で施用されることが多く、10アールあたり1トン
の施用で土壌のCECが1増加するので、計算のし易い資材です。
少し金額が高いので一度に施用することは避け、ゆっくりと改良していくことが経済的です。
一方、牛ふん堆肥のCECは80程度のものが多く、ゼオライトに比べれば少ないものの、
土壌に比べれば高いCECがあります。
いずれにしても、土壌のCECは15程度以上が望ましく、
10以下のときには土壌診断の結果から土壌改良資材をしっかり施用
することが土づくりには大切です。
匠の土づくり講座 21
14.10.21
連載21 「土壌診断③ 注意すべき苦土・加里比」
前回は土壌のpHが低い結果が戻ってきた事例を紹介しました。
今回はその逆、pHが高い診断診断結果が戻って場合です。
診断結果のpHは7.0以上です。
通常、土壌診断ではこのpHの状態をアルカリ土壌と呼んでいます。
アルカリ土壌では石灰が多いことを示していることが多いのですが、
多くの生産者は「野菜作りには石灰(白い粉)は必ず撒く!」と消石灰
や苦土石灰などを撒いています。
これは正しい土づくりではないことにもうお気づきのことと思います。
pHが高い場合には一切石灰資材を撒かないことが最善の対策です。
また、pHが高いから下げなければならないと思われがちですが、
そのような資材に頼る必要は一切ありません。
交換性石灰、苦土、加里の適量は「土の胃袋」であるCEC(塩基交換容量)
の大きさにより変わるので、その絶対量ではなく、
塩基飽和度と塩基バランスから評価することが必要です。
結論から言えば前者は80%、後者は石灰:苦土:加里=7:2:1となればよい
と考えられています。
とくに注意したいのは苦土・加里比で2~6程度が適当です。
牛ふん堆肥を多量に撒いている圃場では、加里が過剰になりやすい傾向にあります。
そのような圃場には堆肥を撒く量を減らすこと、基肥や追肥の加里を減らすように
したいです。
また、苦土・加理比の低下が苦土の欠乏による場合もあります。
このような場合に、土壌のpHが高い場合には硫マグを低い場合には
水マグを施用するとよいバランスになります。
匠の土づくり講座 20
14.08.21
連載20 「土壌診断② 結果が戻ってきた」
一ヶ月前に分析に出した土壌診断の結果が返ってきました。
難しい用語やクモの巣の図が描かれています。
まず、分析値をじっくり見ていきましょう。畜産農家の私も、
事実当初は全くこの分析値の意味はわかりませんでした。
土壌診断は、人間の健康診断に合い通じる点が多く、たとえば、
pHは体温、ECは血圧に相当し、高くても低くても健康を維持する
ことは困難です。
以前にもお話をしましたが、一般の作物ではpHは6.0~6.5が最適で、
これより低い圃場では必ずと言っていいほど処方箋に
「pHが低いので石灰資材を投入しましょう。」
と記載されているはずです。
しかし、安易にこれを受け入れ石灰資材を投入することは本当の
意味の「土づくり」にはなりません。
pHが低い理由を考え、適切な対応をすることが重要です。
結論を言えば、石灰資材を投入するかの判断はECと塩基飽和度
により決定するのが正しい診断です。
私たちの体もそうです。なぜ血圧が高いのか、一時的なのか。
重要な病気が隠れていないか。
したがって、ECが0.5以上、あるいは塩基飽和度が70%以上であれば、
たとえpHが低くても石灰資材の投入は行ってはいけないのです。
その理由は、土壌の酸性(pHが低い)が交換性塩基
(石灰や苦土や加里)の欠乏ではなく、硝酸の集積に起因している
からなのです。
このような事例はとくにハウスやマルチを張った露地野菜や花き圃場
に多く見受けられます。
誤って石灰資材を投入してしまうと見かけ上pHは改善されますが、
ますますECや塩基飽和度は増加し、土壌環境の悪化を招く結果と
なります。
ちなみに硝酸の集積は肥料あるいは堆肥の多量施用によるものが多く、
根本的な施肥の見直しが必要な土壌とも言えます。
匠の土づくり講座 19
14.07.22
匠の土づくり講座 18
14.06.26
連載18「土のしくみ④ 土の動物」
梅雨が長く、ジメジメしていますね。
さて、前回は土の中の小さな小さな微生物について解説しました。
今月は、少し大きくなった土の中にいる小動物を紹介していきます。
土壌動物は、森の落葉や落枝、畑の作物残さなどの植物遺体(しょくぶついたい)
からなる有機物を食べて、細かくしたり、土壌の表面にある動植物遺体などの
有機物を土壌に引きずり込んで土壌と有機物を混合する重要な役割があります。
一体何を言いたいのかわかりませんよね。では、少しわかりやすく説明します。
例えば、ミミズでは、有機物が消化管を通過すると2mm以下に破砕されると
言われています。
トビムシやダニなどはもっと小さく破砕され、その後に続く細菌や糸状菌に
よって有機物の分解が進むのです。
ミミズが土壌表面の有機物を引きずり込む行動では、ミミズは植物遺体を
食べるだけでなく、同時に土壌も食べることになります。
このとき、ミミズは土壌の粒子と有機物を混合してふん土と呼ばれる「粒子」
をつくって土壌の表面に排出するのです。
見たことがあると思うのですが、土壌の表面に盛り上がったふん土はふん塚と
呼ばれています。
少し昔の試験例ですが、ミミズが作るふん塚は年間1平米あたり2~4kgにもなるそうです。
これを土の表面にならすと3mmぐらいの厚さになるのは驚くべき事実です。
したがって、ミミズが作物の生産にかなり貢献し、土壌の性質を変化させるうえで
重要な働きを持つことは言うまでもありません。
しかし、前述のようにこのふん土の生成量は年間にしてもせいぜい数m程度のこと
なので、ミミズだけで土壌改良を行うことはナンセンスなのかもしれません。