農業技術の匠、鈴鹿ポートリー近藤社長の土づくり講座をお届けします。
匠の土づくり講座 17
14.05.28
連載17「土のしくみ③ 土の微生物」
もうすぐ嫌な梅雨の季節ですね。先般、中部土壌肥料研究会で研究者の皆様に
当社の取り組みを紹介してきました。
まだまだ畜産側と耕種側の距離感はありましたが、地道に「匠」としての
活動を続けようと思います。
さて、畑の土をスプーンの上にちょいと乗せるとだいたい1グラム程度になります。
実はこの1グラムの土の中には1億以上の見えない微生物がおり、
重さに換算すると1反(10アール)あたり700キログラムに相当すると言われています。
すごい重さですよね。
この微生物は細菌(バクテリア)、放線菌、糸状菌(カビ)、藻類などに分類すること
ができます。
このうち藻類と放線菌は細菌に分類されます。
つまり、土の中には細菌とカビが沢山いると言えます。数では細菌が圧倒的に多く、
カビの10~100倍になりますが、1つあたりの大きさは1mmの数千分の1に
過ぎないので、目で見ることは当然ながら不可能です。
一方、カビは数が少ないものの、糸状の菌糸をのばす特徴があるので、
土に占める重量割合は細菌の数倍にもなるそうです。
次に土の中における両者の働きについて考えてみましょう。
細菌とカビはお互いに異なる性質を持っています。カビは比較的酸性土壌を好み、
酸素を必要とし、ミミズやダニなどの土壌動物が噛み砕いた有機物中の繊維
(セルロースやリグニン)を「エサ」とします。細菌は、あまり酸素を必要とせず、
カビが分解してできた糖などを分解する働きがあるのです。
匠の土づくり講座 16
14.05.08
連載16「土のしくみ② 土の水持ち」
桜満開も終わりそろそろ梅雨の準備にかかる時期となりました。
土壌の話もどんどん進めていきます。
土壌中の細かな隙間(正式には孔隙(こうぎき))では、土壌粒子の周りに
ある水と空気の境界に発生している力によって水が保たれています。
少し驚きですよね。
隙間が水を保つ力は、その隙間の大きさにかなり依存しているのです。
水を入れた容器に細い管と太い管を立ててみます。細い管の水面はかなり
高くなっています。
これは、細い管の水に表面張力という力が働くため、管の中の圧力が外の
圧力に比べ低くなり、その圧力差に見合うだけの水が引き上げられた結果です。
一方、太い管は逆に水面が低くなっています。
つまり、細い管ほど吸引力が強まっているということなのです。
このことを土に置き換えてみましょう。
土壌中の隙間が粗く粒径が大きいほど、隙間が水を吸引する力は弱いはずです。
逆に隙間が細かく粒径が小さくなるほど、隙間が水を吸引する力は強くなります。
このように、砂っぽい土は土壌粒子が粗いため、大きな隙間が多くなり「水持ち」
が悪くなるのですが、よく言われる排水の良好な土なのです。
一方で黒ボク土は土壌粒子が細かいため、細かい隙間が多くなり、
重力よりも強い力で水を保つことができるのです。
土の中にある隙間は、水の排水路であると同時に、水の貯留庫で
あることをしっかりと理解していただけましたか?
匠の土づくり講座 15
14.03.24
連載15「土のしくみ① 土の中の水 」
前回までは、土を知っていただくための講座でしたが、今回からは少し
「しくみ」について、お話を進めさせていただきます。
中部エコテックさんも、4月からは、新しい肥料製造機を
販売するそうですが、非常に楽しみです。
さて、大きなタオルに水を浸し、それを持ち上げてみた!
想像してみてください。
タオルの水はポタポタと落ちています。タオルの繊維が水を引き
つけている力よりも、地球の重力のほうが強い力でタオルの中の
水を引っ張っていると気づいた方も多いことでしょう。
また、この水がなくなると、タオルが引っ張る力と地球が引っ張る
力が同じになっていくため、ポタポタ落ちなくなります。
さらに、手でこのタオルを絞ることによってしみでてくる水もあります。
手で絞ることにより、地球の重力以上の力がタオルの繊維に引き
つけられていた水をタオルから引き離したためです。
しかし、それ以上の強い力でタオルに引きつけられている水は、
まだタオルに残っています。
このような現象は「土壌」の中でも起こっています。
土壌中の水分はさまざまな力によって保たれています。もし、
この力がなかったならば、雨の水は土壌を通過し、
地下へ全て流れていくはずです。
したがって、雨が降ったすぐに土壌は乾燥状態になり、作物など
とても栽培できる環境にはないはずです。
タオルや土壌がさまざまな力で水を引きつけることは、タオルの繊維の
間や土壌の中の粒子の間にある隙間に何か秘密が隠されているかも
しれません。
よい土の条件として肥料持ち、水持ち、水はけがあげられますが、
よい土とは、いったいどのような性質を持っているのでしょうか。
次回から、「土のしくみ」について紹介していきます。
匠の土づくり講座 14
14.03.03
連載14「土を知ろう⑪ 土の中の微量要素(びりょうようそ)」
聞きなれない言葉ですよね。
当然、目に見えるはずもないのですが、土の中にある微量要素は、
植物の生育に必要で、その要求量が微量な元素をさします。
具体的には、鉄、マンガン、亜鉛、銅、ホウ素、モリブテン、塩素の合計7元素です。
肥料としてはあまりメジャーではないので聞いたことがない方も多いことでしょう。
微量元素とて、何らかの原因で植物に吸収されないと様々な生育障害を引き
起こすことが知られています。
第1に考えられる原因は微量要素自体が土の中に欠乏していることです。
日本の土壌はもともと微量要素含量が低く、植物にマンガン、亜鉛、銅欠乏
が良く発生していました。このため不足する微量要素を補給する対策が
とられていたようです。
第2の原因としては、潜在的な微量要素欠乏です。
土の中には充分なはずの微量要素があるにもかかわらず、植物に吸収
されない現象がこれにあたります。
たとえば、野菜栽培に不可欠な「石灰」のやり過ぎです。石灰を沢山施用すると、
土壌のpHが高くなりすぎてしまいます。すると多くの微量要素の形態が変化する
のです。
つまり、鉄、マンガン、亜鉛、銅、ホウ素は、土の中で溶けにくくなり、
その結果植物に吸われず、結果、植物に欠乏症が起こってしまうのです。
これらのことから、野菜の適正な土壌pHは6.0~6.5に設定されています。
回が進むにつれ、難しい内容になってきましたが、お付き合いください。
匠の土づくり講座 13
14.02.13
連載13「土を知ろう⑩ 土の構成元素」
少し聞きなれないお話をします。
地球上には100種類を超える化学物質を構成する成分が存在している
のですが、土の中にも同じように数多くの成分(元素)が含まれて
います。
ただし、これらの元素の中にはその量があまりにも少なく、
測定できない元素も存在しています。
土壌を構成する元素は含まれる量によって多量(たりょう)
要素と微量(びりょう)要素に分かれます。
最も多い元素はおなじみの酸素で全体の半分を占めると言われて
います。
続いて、ケイ素、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウム、
ナトリウム、カリウムの順で、これらの8種類で全体の99%に
なります。
その他にはリンなどあり、これらは多量要素と呼ばれています。
炭素、窒素、水素もやはり植物にとって必要不可欠な多量要素
なのですが、水や大気から無限に供給されるので除外されること
が多いそうです。
多量の逆の意味に微量要素があります。
これらは、植物の生育にとって必要なものなのですが、
その要求量が微量な元素をいいます。
具体的には、鉄、マンガン、亜鉛、銅、ホウ素、モリブテン、
塩素の7元素です。この中で鉄とマンガンの土壌中の含有量が
5%と0.1%程度であるのに対して、他の微量要素は土1kg中
に数ないし数十mg含まれるに過ぎないのです。
しかしながら、何らかの原因で微量要素が植物に吸収されないと
さまざまな生育障害を引き起こすことになるため注意が必要です。
匠の土づくり講座 12
13.12.25
連載12「土を知ろう⑨ 土のリン酸吸収係数」
リン酸は、植物に必要な三要素の中でも特に水に溶けにくい性質があるようです。
このため、リン酸肥料を畑に撒いても土壌中に存在するリン酸イオンはわずかです。
このリン酸イオンは、磁石で言うマイナスの電気を帯びているため、カルシウム
やカリウムなどのプラスの電気を帯びているものとは異なり、土壌に引っ付く力
が弱いそうです。
また、リン酸イオンは、土壌中のアルミニウムや鉄などと反応して水に溶けない
化合物に変わってしまいます。このことを「リン酸の固定」と呼んでいます。
このリン酸の固定力を表す指標として「リン酸吸収係数」という言葉があります。
リン酸吸収係数は、黒ボク土や東海地方の台地に分布する赤黄色土など、
酸性が強い土壌でその値が大きいことが知られています。リン酸吸収係数の
値が大きい土壌ほどリン酸が効きにくく、百グラムの土壌に千ミリグラム程度
がその境界線(効く効かないのポイント)と考えてください。
したがって、昔から「黒い土はリン酸が効かない。そうゆう土にはリン酸肥料
をたっぷりやろう」という指導が行われてきました。
本当にそうなのでしょうか?
本当にリン酸肥料は必要なのかと畜産農家ながら思ってしまいます。
匠の土づくり講座 11
13.11.21
連載11「土を知ろう⑧ 土のリン酸」
リン酸は作物の生長に必要不可欠な重要元素であることは言うまでもありません。
リン酸は、根の生長を促進などに大きく関与するのですが、昔から日本の土には
リン酸が少ないことから、田んぼや畑に沢山のリン酸肥料を撒いていました。
リン酸肥料の多くは海外から輸入されたリン鉱石を原料に製造されたもので、
過リン酸石灰のように水に溶けるものや、熔リンのように溶けないものがあります。
一般的に作物に対するリン酸の施用量は10アールあたりで10~30kgが目安となって
いますが、「リン酸は効かない!」という固定概念から、
前記のように多くのリン酸肥料が土に撒かれたことにより、多くのリン酸が
土に蓄えられています。
リン酸はカルシウムやカリウムのようなものとは全く異なり、
土の中に溜まっていく性質がある元素なのです。
今後は、長年にわたり土に蓄えられたリン酸を上手に使うことのほか、
堆肥に含まれる有効なリン酸をどのように利用していくかを考えていく
必要がありそうです。
ちなみに、私の農場では、このリン酸を上手く活用するために、
高窒素鶏ふん肥料を製造しています。